スティーヴン・グリーンブラット「1417年、その一冊がすべてを変えた」

 

 概要

「物の本質について」。ローマ時代、エピクロス派の思索家ルクレティウスによって書かれた、一冊の書物、。
原題はswerve、逸脱という意味。副題はhow the world became modern。直接的にはルクレティウスの思想の一部を意味するのだろうけれど、(「物事が時に予期せぬ意外な展開を見せることについては、これを「逸脱」と呼び――」(15ページ)「万物は逸脱の結果として生まれる」「逸脱は自由意志の源である」(239ページ))と、本書に登場する人物らを現してもいる。
1417年、本書の主人公といえるポッジョ・ブラッチョリーニは、スクリプトール(書記官)や教皇秘書としてローマ教皇に仕えていた「重要人物」であったけれども、大分裂(シスマ)時期の対立教皇ヨハネス23世がハイデンベルク城に幽閉されてからは、修道院をめぐって古代写本を探求する「ブックハンター」となっていた。(1章)
そして、彼とルクレティウスの出会いが、1000年の時をこえて唯物論をふたたび西洋に蘇らせることとなり、それはルネサンスに大きな影響を与えることになる、というのが本書の語る物語。

感想

実際のところ私は、解説の池上氏が述べていることに、近い考えを持っている。
つまり、「出来事は、それを意味づける社会的・経済的諸条件が整わなければけっして歴史を動かす重要な一齣にはならないし、またそうした諸条件が揃えば、多少の時間的前後はあれ、いずれ同様な動きが起きただろうと」(333)考えている。
そして、本書はポッジョとルクレティウスの出会いについてはおおくのページを使っているものの、その後の思想に与えた影響という点では、十分に論じられたとはいいがたい。
たしかに15世紀作成の写本が50冊以上現存しており、1490年代にジョークのたねになるほどにルクレティウスの詩が広まっていたこと、エラスムスやトマス・モアがエピクロス主義の影響を受けた作品を書いていること(「エピクロス主義者」「ユートピア」)(283ページ以下)、異端として処刑されたジョルダーノ・ブルーノに与えた影響などが指摘されている(10章)いる。

また、ニュートンやイラズムス・ダーウィンの思想に与えた影響など、斬新な思想として十分なインパクトを与えたことは理解できるけれど、「いかにして世界は近代にいたったか」と題するのであれば、そのあたりをもう少し詳述して欲しかったと思う。一方で原子論が強烈なインパクトをもって出現し、もう一方でそれは「他の無数の危険な主張」と結びつけられてしまった(313)と本書は書いている。ではやはり、そのせめぎあいのダイナミズムこそが、「いかにして」の問いに答えるものであると思う。

 

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