「エラスムス神学著作集」エラスムス

 概要

金子晴勇訳。「エンキリディオン」「フォルツ宛て書簡」「新約聖書への序文」「真の神学的方法論」「対話集」より「敬虔な午餐会」「エピクロス派」「ロイヒリンの神格化」。加えて、解説とあとがきを収録。

エラスムスの人生

(センチュリーブックス「エラスムス」を参考に作成)

 

1466年うまれ(67,69年説あり)。83,84年に父母をあいついで亡くし、87年に修道院にはいり、93年に司教の秘書として修道院を出る。その後95年にパリ留学、翌年退学、ラテン語の個人教授で自活する。99年にイギリスをおとずれ、コレットやモアとあう。翌年、「古典名句集」出版。1504年、「エンキリディオン」出版。翌年、「新約聖書注解」出版。11年「痴愚神礼賛」を出版。1517年11月1日、ルターの「95個条の論題」発表。19年、ルターからエラスムスへの手紙。24年、「自由意志論」でルターを批判、翌年ルターは「奴隷意志論」を発表、さらに翌年、エラスムスの再反論。晩年は孤立し、1536年7月12日、バーゼルで死去。

 本書の収録作品

「対話集」

著作について、まず「対話集」。これはパリ大学からの退学後、自活のために行ったラテン語個人教授のさいにつくった教材が基になっている。もっとも、エラスムスの生涯を通じて拡大をつづけた書物であり、本書所収の「敬虔な午餐会」と「ロイヒリンの神格化」は、1522年に、「エピクロス派」は33年にはじめて印刷されたものだという。

 
「エンキリディオン」

「エラスムスの親友バットの紹介で知ったある敬虔な婦人から、信仰心の薄い夫のためになるような本を書いてくれと頼まれた」のが、執筆のきっかけになったという。タイトルの意味は「短剣=必携」。「エラスムスがこれによってはじめて自己の神学的な思想や立場を明らかにした」とされる著書。

訳者解説では、1518年8月、フォルツ宛の手紙を序文として新版が出版されたさいに、著者の根本思想を要約して提示したことから、人々の注目を集めるようになったという。

「エンリキディオン」の内容

「エンキリディオン」の内容についてみると、二部にわかれている。そして、一部でまずキリスト者がいかなる状況にあるのかをのべ、二部でその状況への対処法が述べられる、という具合になっている。以下、一部の内容を紹介する。

 ・人生は戦いであること

まず、「人生においては」「邪悪極まる悪魔ども」の攻撃を警戒すべきである。もっとも警戒すべきは「不死なる部分」、すなわち魂の滅びである。

そしてそれへの戦いにつねに我々はさらされていることを指摘したのち、行動原理としては中道をとるべきだとされる。

・武装の手段

そして、心の武装の手段としては、祈りと聖書の知識があげられる。「祈りは確かに懇願し、知識は何を祈るべきかを忠告するのです」。

そして一般的に解釈されている(この世の)平和と、キリストの平和が対比され、後者に達するには「自己自身に対して戦いをすること」が必要だとされる。つづいて、「絶対的な正しさ」は「知恵」であるとされたうえで、この知恵は実は自己自身を知ることである、とされる。(女のうちで美しいものよ、あなたが自己を知らないなら、出ていき、あなたの群れの足跡について行きなさい)

・人間の性質論

そのうえで人間の性質について考察がもたれ、次のようにいわれる。

「したがって幸福に至る唯一の道は次の如くです。まず第一にあなたが自己自身を知ることです。つぎに、あなたは何かを情念にしたがってではなく、理性の判断に従って行うことです。さらに理性が健全であって、洞察深くあってほしいです。つまりただ徳義だけを目指しますように。」

そして多くのキリスト教徒は「家畜のように自分の情念に仕え」てしまっており、この奴隷状態を平和と呼んでいるとエラスムスは嘆く。

つづいてオリゲネス(人間を「霊、魂、肉」に区分した)が分析され、迷妄、肉、弱さが三つの悪であるとされる。

そしてわたしたちは迷妄を是正し、弱さを勇気づけ、肉を抑制しなければならない、とされ、そのために教則が与えられる。(以下、第二部の教則がつづく)

 

さらに、解説によれば、「唯一の目標」としてキリストをたて、「すべての熱意、あらゆる努力、一切の閑暇と仕事をこのお一人に向けるということ」…をエラスムスは「最上位の教則」としてたてており、また別の目標として、「宗教を儀式に依存させることの誤り」を指摘することことを意図していたとされる。

すなわち、敬虔において外形的儀式を重視する「形式主義に批判はむけられ」、断食や贖宥状などよりも、むしろ、実践的に有徳な生活をすること、そしてそのためには聖書と古典に帰り、単純明快な精神に生きることが、望ましい、とされている。

 ・初期エラスムス思想の補遺

つづいて、「フォルツ宛書簡」や「新約聖書の序文」では、エラスムスの思想の発展として、「キリストの哲学」があげられるという。すなわち、「ギリシア哲学に匹敵する内容がキリスト教自体のうちに存在する」と彼は見ており・・・それが、「福音書と使徒書によって確証できる」。そしてその内容は、

1理性よりも生の変革である

2良いものとしてつくられた自然の回復

3聖書主義の神学

があげられる。(詳しくは本書597p以下)

この序文が付された「校訂新約聖書」は、1516年に刊行して以来、何度も版を重ねた。これにもとづき、様々な国の言語への聖書翻訳も現れてきた。このなかにはルターの有名なドイツ語訳聖書も含まれる。(648p)。

・「真の神学的方法論」

そして、約200ページにわたって訳出されているのが、「真の神学的方法論」。聖書理解のための方法論を組織立って述べたもの、とされる。解説のおわりではルターとの論争の遠因ともいえる、エラスムスの「応答的な信仰」についても述べられている。(675p)

 

 終わりに

エラスムスの神学思想を知るには優れた一冊。特に訳者解説が充実しているのがよく、入門書の表現で理解したつもりで終わっているところを掘り起こして、原典に基づいたしっかりとした理解に引き戻してくれる。

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