「世界システム論講義」川北稔

本書は世界システム論の立場から近代史を概観した本です。学術的でありながら平易でわかりやすい文体が特徴的で、歴史の再入門にも適した良書といえます。

世界システム論とは

まず、世界システム論とはなんでしょうか。本書では以下のように定義されています。

近代世界を一つの巨大な生き物のように考え、近代の世界史をそうした有機体の展開過程としてとらえる見方である。

(はじめに)

つづいて、「先進国」「後進国」という捉え方は、以下のような考え方をベースにしている、と指摘されます。

  • 歴史は国を単位として展開する
  • 世界史は、国が共通のゴールに向けて進む過程である

これは「単線的発展段階」論とよばれます。

これに対して、「世界システム論」では、世界システム内部の有機的関連を重視します。

「イギリスは、工業化されたが、インドはされなかった」のではなく「イギリスが工業化したために、その影響を受けたインドは、容易に工業化できなくなった」のである。

(はじめに)

世界システムの展開

~16世紀

以下、具体的な歴史を通じて、世界システムの展開が叙述されます。

まず、14、15世紀にヨーロッパ全域において「封建制の危機」がありました。この危機とは、人口の減少と生産の停滞により、領主と農民の対立が深まったことにありました。これにくわえて、権力の国家機構への集中が起こります。ここからゆっくりと国民が成立してきます。

ここで先ほどの世界システム論の叙述、相互関係の叙述がでてきます。中核=ヨーロッパで国家的機構が強まるにつれ、そこに従属する地域である周辺=東ヨーロッパとラテンアメリカでは、国家的機構が弱められ、植民地化されることもあったといいます。

ここで、なぜアジアが中核とならなかったか、という問いが考えられますが、これは、「帝国」が存在したか、「国民国家」の寄せ集めだったか、という違い、また、K・ポメランツの「大分岐」を援用して、「アメリカ」という巨大な資源供給地が存在したかどうか、という違いに理由を求めていきます(以上、2章より)

すなわち、ヨーロッパは一方に「普遍的な支配」という理念があり、一方で事実として権力が分散している状態がある、という世界でした。16世紀前半では、世界システムの全域を普遍的に支配しようとする試みが生き残っていたわけですが、これは勝者なしに決着します。(49p)

17世紀の危機

17世紀にはいると、世界的な貿易活動の停滞、反乱、動乱が発生します。

ところでこれは「封建的生産関係」の危機であり、その解決策は「ブルジョワ革命」である、とする考え方もありますが、世界システム的にみると、これは「近代世界システムの危機」としてとらえられます。グローバルな分業体制が拡大しなくなったことが危機だとされるのです。かつての封建制の危機は、周辺部から得られる経済的余剰を取り込むことで回避され(26p以下)以後中核地域においては、その余剰をわけあっていたわけですが、17世紀の危機は、余剰が拡大しなくなったことによる危機だといいます。この危機への対処法が重商主義とよばれる保護政策でした。(55p)

そしてオランダがヘゲモニー国家として確立します。ここで本書は、ヘゲモニー国家は必然的に自由貿易を主張する、と指摘します。その結果として、世界中で最もリベラルな場所にもなるという指摘です。

イギリスの商業革命

いっぽう、イギリスにとっての17世紀の危機は、人口増加や経済成長が、その天井に突き当たったことにありました。この対応策として、イギリスはまず植民地拡大を、ついで農業革命を行い、そして18世紀に製鉄法が完成し、産業革命が行われます。(67p)

以後、本書では「各論」、すなわち、世界システムの具体的相貌がみられます。いくつかトピックを拾いますと、

「ティー・コンプレックス」と世界システムの関連(125p以下)であったり、

アメリカ移民の出自についての研究の変遷(105p)などが面白いところです。

19世紀と移民の時代

19世紀になりますと、「新移民」や「出稼ぎ」などが出現し、近代世界システムの歴史上、「移民の世紀」である、とされます。

これは、中核部が工業化の局面に入ったことによる、労働力の配置転換とみることができる、といいます。(138p)世界システムが地球全体をおおうことで、労働力が持ち込まれるシステム外部が存在しなくなり、周辺地域間で労働力を移動し、より生産性を高めるという解決策がとられた結果だといいます。

イギリスの斜陽

アメリカ、ドイツが地位を向上させるにつれ、イギリスのヘゲモニーが衰退をはじめます。海洋国家から大陸型国家へという流れが見て取れます。同時に、近代世界システムが世界中を蔽ってしまったことから、「成長・拡大」を前提とする近代世界システムは、上で見た17世紀の危機と同様の状態に陥った、といいます。1873年にはじまる大不況です。

イギリスのヘゲモニーが衰退しても、すぐに新しいヘゲモニー国家が誕生したわけではなく、それは二つの世界大戦のあとに起こりました。その間には帝国主義の時代がはさまります。

帝国主義とは、地球上の残された「周辺化」可能な地域をめぐる、中核諸国の争奪戦であったということができる。

(161p)

周辺化可能な地域の消尽は、世界戦争につながりました。それは同時にヘゲモニー国家の地位をめぐる争いでもあった、とされます。

感想

世界システム論の立場から実際に近代史を振り返ることで、世界システム論について、具体的にどのような考え方をとっているのかがわかります。このわかりやすさが本書の一番の特徴でして、歴史の優れた見取り図を提供してくれます。

とくに本書は深入りしすぎず、かといって抽象的すぎもしない解像度で明快な「ものさし」を与えてくれるものといえ、他の歴史書をよむさいにも役立つことと思います。

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