自作農の成立を中心に:「入門戦後法制史」岩村等編著

概観

本書は主に大学一二年生を対象にかかれた、戦後法制史の教科書です。

1・2・3章

まず太平洋戦争の終結までが概観され(~8)、GHQの占領期(~13)から、日本国憲法制定、(~26)ついで極東国際軍事裁判の展開(~34)がみられます。

一章では、GHQの占領期、間接統治がなされましたが、以下の問題を生じたとされています。

  • 旧来の日本の行政慣行を継承することとなった
  • 占領政策実施を命じた覚書を実現する方形式として、勅令、命令、政令、省令の形をとったことから、法律にこれら勅令等が優位する事態をまねいた
  • 覚書の内容の翻訳過程で、旧来の日本の法制が新しい法制中にとりこまれた
  • 組織間で、覚書の趣旨の理解に齟齬が生じた

ここまでは議論の多く、関連書籍も数多く存在しているところです。

4章からはわれわれにとっても身近な話になってきます。

4章

農地改革についてみられます。

1900年前後、自作農が没落し、地主による土地の集積がおこりました。地主は小作農に土地を貸与して小作料をとっていましたが、その粗収益の6割前後が、地代、小作大であったといいます。(36)

1926年に、自作農創設維持補助規則が成立しますが、これは政府資金の貸し付けと利子補給により、小作農に土地を買い取らせる、あるいは自作農が生活に困って土地を売却することを防ぐ方針にもとづくものでした。

要するに資金援助によって自作農を奨励する、というものですが、実際に土地の所有権を移転して自作農となれるか、は、地主と小作人の同意にまかされていた点、戦後の農地改革とは異なります。

戦後の農地改革

第一次農地改革では、GHQからの「農地改革に関する覚書」(下リンク先が原文と思われます。英語)によって、強制譲渡の制度が設けられました。

dl.ndl.go.jp

しかしGHQはこれを不十分だとし、さらなる勧告をおこないます。これにこたえて、自作農創設特別措置法および農地調整法改正案が成立します。

自作農創設特別措置法については、有名な判例がありました。(以下裁判所の判例検索)

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

自創法(注:6条3項)の定めるこの対価が憲法二九条三項にいわゆる正当の補償にあたるか

が、争われたわけです。

ではこの自創法は、どのような法律だったのか。以下に原文がありました。

公文類聚・第七十編・昭和二十一年・第六十三巻・産業四・農事二

まず、ある一定の条件(面積等)を超える小作地を政府が買収し(3条1項)、ついで、農家に改めて売り渡す(18条)というものです。

こうして成立した自作農が農協を結成しました。

戦後の農地改革の一環として、GHQは欧米型の農業協同組合(行政から独立しており、自主的に組織できる)を作ろうとした。だが、当時の食料行政は深刻な食糧難の中で、食料を統制・管理する必要があった。そのため、1948年(昭和23年)、既存の農業会を改組する形で農協が発足した

農業協同組合 – Wikipedia

5章

GHQは、1945.11.6日、「持ち分会社の解体に関する覚書」において、

①持株会社の解体

②4大財閥の資産凍結

③それ以外の私的結合体の解体計画の作成

④私的独占及び取引の制限等を禁止する法律の制定

などの実施を指令しました。

この結果、持ち分会社の解体、財閥家族の排除、「過度経済力集中排除法」の制定による巨大企業の解体、独占禁止法の制定などが行われました。(以上、47~49p)

6・7章

6章では、いわゆる労働三法の成立がみられます。労働組合法,労働基準法、労働関係調整法のことです。その後の展開としては、男女雇用機会均等法に注目しています。

7章は、教育改革にともなう諸事項の紹介です。黒塗り教科書、GHQの4つの指令、教育基本法の制定などです。

8・9章

8章は刑法改正について、9章は民法改正についてみていきます。不敬罪(旧73-76条)の削除に関して争われたのが、いわゆるプラカード事件でした。本事件では、免訴という結論になりました。

また、姦通罪についても削除が行われました。これにたいして、刑法200条の規定については、1973年まで違憲判決が出ることはありませんでした。

9章では、1947年民法改正がテーマになっています。「家」制度の廃止、家族制度に関する改正です。(86)

(本書の初版は2005年なので、民法の口語化、2020年施工の改正民法は言及されていません。)

10章

刑事訴訟法の改正についてみられます。

①強制処分における人権保障

②検察官による起訴独占主義の抑制(検察審議会の設置)

③当事者主義的構造の強化

が、新旧刑事訴訟法の改正点とされます。(91)

いわゆる強制処分に令状を必要としたことや、予審を廃止し、また公判中心主義、起訴状一本主義、伝聞証拠の原則排除、強制…による自白の証拠能力否定などの原理は、ここで獲得されました。

以後、新刑事訴訟法のなかで行われた冤罪事件がみられます。

11~13章

11章では表現の自由に関連する論点がみられ、12章では八日市ぜんそく事件を中心に、公害問題がみられます。公害対策基本法や、環境基本法などが紹介されます。

13章は、戦後の国際社会と、日本の立ち位置が紹介されます。

感想

本書の大半を占めるのは、戦前・戦後において、(主にGHQの政策によって)法制度がどう変わったか、という点です。教科書用ということで、社会的背景の説明、経緯の説明が多いことも特徴です。

100ページほどの小著ということもあり、各トピックについて詳しく知りたい、という場合には、他の書籍をあたる必要があると思います。

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