イースト・エンドを知るために:「塗りつぶされた町」サラ・ワイズ

イースト・エンドについて

イギリスのイースト・エンドと呼ばれている地区は、かつて貧困者の集まる地区でした。

ここの成立について「イギリス近代史講義」をひらくと、港が成立におおきくかかわっていることが指摘されています。

まず「ロンドン港」がありました。ここの荷役特権をもつ「シティ・ポーター」は、あまり評判がよろしくありませんでした。産業革命期の交易量に対応できなかったようです。

そこで、荷主はロンドン港をさけて、別の場所で荷下ろしを行うことにしたのですが、その方法というのが、テムズ川から水を引いて、大型船を係留できる「プール」(ドック)をつくり、そこで荷役を行うことでした。

個人の所有地につくることで、「ロンドン港」にあたらず、シティ・ポーターの特権を回避することができたわけです。これは現在「ドックランド」とよばれています。

ここでの労働力は、周辺から貧しい人々をあつめることで対応しました。こうしてイーストエンドが誕生しました。(以上「イギリス近代史講義」より)

またチャールズ・ディケンズの小説を嚆矢とする、イースト・エンドを舞台とした小説が、「イースト・エンド文学」と呼ばれています。(East End Literature – Wikipedia)

たとえば、ディケンズの小説や、オスカー・ワイルドの「ドリアングレイの肖像」などがイーストエンドを舞台にしています。本書もそれにおとらず、イースト・エンドの生活状況を活写しています。

本書の概要

本書の主な舞台はニコルです。ニコルというのはイースト・エンドの一区域で、オールド・ニコルともよばれています。ずさんな工事による危険な住宅がならび、それを所有するオーナーたち(60)は、「旨みのある」不動産事業を営んでいました。 オールド・ニコルの悪名は、モリソンの「A Child of the Jago」や、オズボーン・ジェイ牧師のセンセーショナルな記事に多くを負っています。

そして、本書のタイトルの由来ですが、そのオールド・ニコルが、チャールズ・ブースが「ロンドンの民衆の生活と労働」で作成した「貧困地図」において、黒く塗られた地域であることが理由となっています。

ロンドンの民衆の生活と労働 – Wikipedia

より転載。「貧困地図」よりオールド・ニコル一帯。パブリック・ドメイン。

本書はまず救貧政策の歴史を振り返ります。(1部)ついで視点は、アーサー・ハーディングの回想テープを主な材料として、ニコルでの人々の生活に入り込んでいきます。(2部~)そして、チャールズ・ブースの「貧困地図」の作成がとりあげられます(259)また、かれのためにニコルの情報をあつめた人の一人が、上にも述べたオズボーン・ジェイ牧師だとされています。

Old Nichol – Wikipedia

感想

本書は救貧政策の歴史と、ニコルでの人々の暮らしを生き生きと描き出した点に特徴があります。その具体的な展開については本書やリンク先を参照いただくことにして、ともあれ、ニコル地区の都市再開発で本書は終わっています。wikipediaでは

Whilst the new flats replaced the existing slums, with decent accommodation for the same number of people, it wasn’t the same group of people. The original inhabitants were forced further to the East, creating new overcrowding and new slums in areas such as Dalston and Bethnal Green. At this time, no help was available to find new accommodation for the displaced, and this added to the suffering and misery of many of the former residents of the slum. The new blocks had policies to enforce sobriety and the new tenants were clerks, policemen, cigarmakers and nurses.

Boundary Estate – Wikipedia

とあります。

・新しい建物に住むものはそれまでの社会層の人間ではなかった

・それまでのひとびとはさらに東へ移り住むことを余儀なくされ、新しいスラムを形成した

・新しい地区では禁酒が強制され、警官、シガーメーカー、ナースらが賃借人となった。

と、かかれています。

たしかにLCCはていよく住民を追い出しただけのようにみえますが、本書による限り事情はもうすこし複雑なようです。もっとも、事実として追い出された形となったのですから、住民の立場からすれば、大した違いはないともいえます。

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