「論究憲法」感想

概要

本書は、論究ジュリストに掲載された憲法に関連する論稿のうち、一般に関心がもたれそうな論稿をあつめて再構成したものです。

そうした成立過程から、本書の扱うトピックは多岐にわたります。(憲法の成立過程から、現代の個人情報保護、ヘイトスピーチの問題まで)しかし分量的にも中心となるのは、憲法判例を読みとく2部です。以下はいくつかの論文の紹介です。

大日本帝国憲法の制定

本論文においては、明治期日本の導入した君主制原理が、いかなる歴史、問題点をもつか、という点から、終戦後の日本国憲法にいたるまでの流れが概観されます。

すなわち、君主制原理の淵源はフランス1814年シャルトにあるとしたうえで、この「制限君主制」というシステムは、本来国家権力のすべてをつかさどるはずの君主が、その権力を自己限定することで議会とのバランスをとったという形なのですが、この自己限定自体がそもそも可能なのか、という難点をかかえているといいます。

さらに、この問題は日本において、終戦を境とする、天皇主権から国民主権へ、という変化をどうみるかにもかかわってくるといいます。なぜなら、もし上記のような自己限定が可能なのでしたら、天皇主権から国民主権への変化も、革命ではなく、法的連続性を持った主権の移行としてとらえられるからです。

つづいてわが国での展開がみられますが、わが国では基本的に君主制原理を採用したのですが、支配的だった美濃部達吉の理論が、ドイツで発展した近代公法学の理論、すなわち国家を国民によって構成される法人であるとみる理論(国家法人説)に立脚していることが指摘されます。ここからは法治主義と議院内閣制が唱道されます。

ご存知の通り当時の社会情勢にあって、この学説は厳しい批判にあうのですが、次の「天皇機関説事件」論文では、より具体的にどのような批判があったのか、が分析されています。

薬事法距離制限違憲判決

本論文では、先例となる事件や、当時の社会情勢などを紹介したうえで、芦部理論(規制目的二分論)を「図式的」であるとし、石川教授の段階理論を紹介しています。

段階理論では

①職業活動の規制と職業選択の規制

でまず段階をつけ、つぎに

②自らの努力で克服できる主観的条件とそうではない客観的条件による規制

と段階をつけます。

そして薬事法事件判決は、「選択」の規制である「許可制」には厳しい審査を要求し、必要最小限という容認基準をたてるのが原則としたうえで、護送船団方式が憲法上の要請だと断言し、審査密度が緩和されたとされます。(ここで規制目的二分論が登場)

このうえで、②の主観的条件と客観的条件を考慮して審査密度を設定します。

(段階理論について他には百選の解説や、木村教授の「憲法の急所」などが参考になります)

もっとも、この段階理論で「日本の最高裁判例の傾向を説明するには無理がある」とする長谷部教授の意見も紹介され、ここはまだ議論がある、として本論文はおわります。

追記:段階理論について、私用にまとめていた文章がありましたので、2ページ目に追加しておきます。

衆議院定数不均衡訴訟違憲判決

よく、一票の格差が問題になるときに、どの程度までなら容認できるか(あるいはまったく容認できないか)、自分の意見を持っておきなさい(そしてそれを説明できるようにしておきなさい)といわれますが、この論文はその参考になると思います。少し紹介しますと、芦部教授は最大2対1以上の較差があってはならない、としていますが、これを支持する根拠としては

①2人が集まっても1人の投票の重さしか持てないことは明らかに平等原則違反である

②主要でない諸要因が主要な要因を打ち消すことができる限度

などがある、とされています。(115p以下参照)

北方ジャーナル事件判決

憲法21条2項に検閲の絶対的禁止がありますが、これが具体的に定義されたのが税関検査事件でした。

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面
憲法二一条二項にいう「検閲」とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべきである。

そのうえで、司法権たる裁判所が主体となり、また個別的具体的に行う行為であるところの事前差止が問題になったのが北方ジャーナル事件ですが、とりあえず本事件の帰結としては

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

①事前差止は検閲にあたらない

②名誉侵害の被害者は名誉権にもとづき、侵害行為の排除、または差し止めを求め得る

③その事前差止にあたっては、とくにその出版物が公務員または公職選挙の候補者に対する評価等に関する場合は、原則ゆるされない。

④例外的に、その表現内容がその表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り、許される

⑤無審尋差止も、特定の要件を満たせば認められる。(詳しくは判旨の要件参照)

などですが、本論文ではこの帰結を諸外国の例と比較しながら、その現代的含意をさぐるものといえます。

感想

専門的な論文が多いですが、3部の諸論文などは現代的なトピックが多いので、そのテーマに興味があれば興味深く読めると思います。また2部の諸論文も、判例と学説の理解に役立つと思います。

 

(次ページは、憲法22条についての私的まとめです。)

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