「論究憲法」感想

補足。22条についての私的まとめ

条文

第二十二条

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

薬局距離制限事件

保護範囲

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/936/051936_hanrei.pdf

まず、職業は「生計の維持」に必要なのにくわえ、「個人の人格的価値」と不可分だとされます。

職業は人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、(…)これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである。

そこから、職業選択の自由(憲法22条の明文)にくわえ、職業活動の自由(判例による解釈)も保障される、とされました。(保護範囲)

この(生計の維持、人格的価値)二要件が必要とされる理由は、職業を純粋に生計維持のための規定とみてしまうと、生計に困らない程度の規制なら許容される可能性が生じるからです。

(木村草太「憲法の急所」)

選択した職業の遂行自体、すなわちその職業活動の内容、態様においても、原則として自由であることが要請される

制限と審査密度決定

そのあとで、「公共の福祉」による制約を認め、職業の多様性を指摘し、具体的な規制を判断するにあたっては

具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによつて制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。

となります。

そのうえで、立法裁量が認められるのですが、ひきつづいて、その立法裁量が制限される場合を規定します。「事の性質」により、裁判所による裁量統制が及びうる、というわけです。(百選の解説を参照)

以下「一般に許可制は単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので職業の自由に対する強力な制限であるから(…)原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し」として、「必要性の審査」(実質的関連性の基準)に踏み込みました。(制限→審査密度の決定)

ここまでをみると、保護範囲+制限→審査密度決定という流れがふまれています。

規制目的二分論?

しかし、そのうえで判示は

また、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によつては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要するもの、というべきである。

とし、消極目的のときに、厳格な合理性の基準を採用しています。ここから出てくるのがいわゆる規制目的二分論です。

しかし、規制目的二分論を、積極目的→明白の原則、消極目的→厳格な合理性の基準、とする考え方のままだと、ここはよくわからないところです。規制目的二分論を修正する必要が出てきます。

では上までの論理をふまえたうえで、どう解釈すべきでしょうか。これは、小売市場事件を見るときにみていきます。

段階理論

一方で、百選の解説で石川教授の指摘している点に、本判決における「段階理論」の影響があります。百選の解説を読んでもよくわからないので、「憲法の急所」のコラムを参考にします。

それによると、まず、職業「活動」の規制と職業「選択」の規制を区別します。(最初に見たようにどちらも保護範囲ですが、)前者は事後規制、後者は事前規制です。事前規制は「職業の自由に対する強力な制限」なのでした。そのうえで、事前規制のなかでも、「主観的条件」による規制と、「客観的条件」による規制を区別します。自分の努力で解決できるかどうか、という違いです。そして、客観的条件による職業選択の規制こそ、自らの「人格的価値」にとって大きなダメージを与える、と考えます。

そして、(本判決に二分論しか読まないのは)「きわめて皮相な読み方であって、段階理論は本判決の中に既に内蔵されている」と指摘しています。

(具体的な段階理論の読み込みは「憲法の急所」参照)

小売市場事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/995/050995_hanrei.pdf

つづいて小売市場事件をみていきます。

規制目的二分論によれば、本判決は狭義の積極目的規制において、明白の原則を適用したもの、とされます。

しかし、最近では、薬事法違反事件は、目的を問わず、

許可制、特に客観的条件による許可制については厳しい審査

という一般的枠組みを示したものであり、そのうえで、

また、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく

という留保をつけたものだと理解したうえで、その留保の場合、例外の場合を論証したのが小売市場事件だとしているそうです。

(以上、「憲法の急所」より)

そう理解すると、薬局距離制限事件の判旨は以下のように理解できると思います。(私見)すなわち、保護範囲→制限→審査密度決定(一般枠組み+例外≒規制目的二元論)といった流れです。

その他の判例

その他の判例についても短くみていきます。

西陣ネクタイ事件

本判決は、生糸の一元輸入措置が経済活動の自由を侵害しないかが争われたものです。

本記事に関連する内容を言えば、一元輸入措置は、養蚕業者保護のため行われたものであり積極目的なので、明白性の原則が適用され、たとえ(原告ら織物業者が)「自由に外国産生糸を輸入する」ことができないとしても、合憲であるとしたものです。

本判決では、たしかに、職業「活動」の自由が侵害されているにすぎません。

(「一般に許可制は単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので」(薬事法事件判決))

また、業者保護という目的は、たしかに積極目的で、明白の原則が適用される例にも見えます。

しかし、本判決は、一部の経済的弱者を保護するために、他者(すくなくとも強者とはいえない)にたいして制限を課すものであるため、そもそも積極規制といえるのか、また、本政策のもたらしたその後の影響をみるに、結局のところ合理性すらなかったのではないか、などの批判がなされています。(詳しくは百選の解説を参照ください)

すくなくとも、本事件のようなケースでは、明白の原則を安易に適用すべきではなく、合理性の審査を及ぼすべきだった、とは言えそうです。

森林法共有林事件

本判決は規制目的二分論では説明困難だと考えられています。射程が及ばないことの確認のために、念のためみていきます。

すなわち、

財産権に対して加えられる規制が憲法二九条二項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によつて制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきものであるが、裁判所としては、立法府がした右比較考量に基づく判断を尊重すべきものであるから、立法の規制目的が前示のような社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであつても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであつて、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法二九条二項に違背するものとして、その効力を否定することができるものと解するのが相当である

として、最大判昭和50年4月30日…薬局距離制限事件を援用しています。

ここまで読めば、「ああ、規制目的二分論→積極目的→明白の原則だな」と考えそうです。

しかしこのあとでは一転、立法事実に踏み込んだ審査を行っています。

ここはまた別の論が必要ですが、一言で言えば、憲法上の財産権への侵害として考えるべきだとおもいます。

(以上)

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