「給食の歴史」藤原辰史

学校給食の実施に当りては、貧困救済として行わるるものたるが如き感をあたうることなく、寧ろ養護上の必要に出ずるものなるが如くし、周到なる注意を払うこと

(本書52p「学校給食臨時施設方法に関する件」より)

本書の概観

本書は給食の歴史を書いている。

まず第一章では給食の一般的性質が記述されます。総論といっていいです。

  1. 家族以外と食べること
  2. 家の貧富を問わず供給されること
  3. 食品関連企業の市場であること

が、給食の基本的性質としたうえで、本書の歴史記述の方法として

  1. 子供の貧困対策
  2. 災害大国における給食の役割(炊き出しの拠点になるなど、災害時における貢献)
  3. 運動史としての視点
  4. 給食と教育の関係
  5. 日本と世界の給食の比較、世界史の中での位置づけ

という視点を設定します。

世界の給食(本書1章より)

5について本書では、イギリスでは1870年に義務教育法が制定されますが、これはあまり効果をあげず、学校給食が普及したのは1870年代後半~90年代中頃までの「大不況」と、ボーア戦争が原因にあるといいます。

すなわち、志願兵士の健康状態を向上させるため、学校給食に注目が集まったわけです。

そして1906年、学校給食法が発布されます。この特徴は、地方教育当局による給食費の一部負担などがありますが、つまり福祉政策です。

ドイツにもボーア戦争をきっかけとしたイギリスの運動がつたわり、国民の健康状態の改善手段として給食が注目されるようになりました。

フランスでは慈善事業、救貧の施策として学校給食が実施(1849年、パリ)されてきましたが、次第に貧困家庭の自尊心に配慮(上記2に関連)して、貧困家庭以外にも給食を与えるようになりました。

またアメリカでは20世紀初頭に小学校の栄養不良者対策として、各地域で実施されだしましたが、1935年、ニューディール政策の一環として、国家政策の一部となります。

こうした事情を概観し、世紀転換期の不況が給食の進展をもたらした、と本書は主張します。

戦前期の展開(2章)

2章以降では日本での展開がおっていかれます。

本書では江戸時代の給食制度についてもかるく触れられていますが、日本で近代的な給食が始まったのは、1889年の私立忠愛小学校をはじめとするそうです。当初の目的は貧困児童の教育が目的でした。(31)

ついで、1919年に東京府で給食が佐伯矩(さいき ただす)の影響下で開始されます。日本における行政による給食のはじめです。

佐伯矩(wikipedia)

また、給食の定番といえば牛乳ですが、これに大きな影響を与えたのは、岡田道一という人物で、牛乳の効用や、ストローで飲む方法を指導したりしました。

また、戦前期において兵士の体位向上のために学校で牛乳(脱脂粉乳ではない)が支給されていたそうです。(58p)

戦前期の給食は、全国で統一された形で実施されたわけではなく、各地各地で行われていたうえに、未成熟なものでしたが、本書の叙述をみていくと、1章で述べられた給食の基本的性質と、基本的問題点はすでに出現していることがわかります。

戦後の給食(3章~)

つづいて戦後の給食制度に大きな影響を与えたのはGHQでした。GHQは「占領軍の健康損害」と子供の飢えは「占領の諸目標に危害を及ぼしうる」点から、「スクール・ランチ・プログラムの実施は「マスト」で」なければならない、との観点から、日本側との協議がおこなわれます。その結果、通達「学校給食実施の普及奨励について」が各地方長官あてにだされることになりました。(102)

この後、アメリカからの占領地域救済資金(ガリオア基金)が打ち切られたさいに、当時の池田大蔵大臣が学校給食の「再検討」と、「生活保護など別途の面での考慮」すべきとのべる(上記一般的性質2に関連)など、給食の危機がおとずれます。(132)

この危機はなんとか回避され、1954年に学校給食法が交付されました。

学校給食法
電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府令・省令・規則)の内容を検索して提供します。

(現行法は平成20年(2008年)と平成27年に改正されたもの)

制定時の条文はこちら

新自由主義の時代を経て、2005年、食育基本法が公布され、2008年には学校給食法が改正されます。この結果、栄養教諭制度が整いました。(234)

食育基本法
電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府令・省令・規則)の内容を検索して提供します。

学校給食法と食育基本法

以下すこし、これらの法律をみていきますと、昭和29年段階の「目的」では

(この法律の目的)

第一条 この法律は、学校給食が児童の心身の健全な発達に資し、かつ、国民の食生活の改善に寄与するものであることにかんがみ、学校給食の実施に関し必要な事項を定め、もつて学校給食の普及充実を図ることを目的とする。

と、学校給食の普及のみが目的として定められていますが、現行法では

(この法律の目的)
第一条 この法律は、学校給食が児童及び生徒の心身の健全な発達に資するものであり、かつ、児童及び生徒の食に関する正しい理解と適切な判断力を養う上で重要な役割を果たすものであることにかんがみ、学校給食及び学校給食を活用した食に関する指導の実施に関し必要な事項を定め、もつて学校給食の普及充実及び学校における食育の推進を図ることを目的とする。

と、学校給食を通じて食育を普及していくという目的が追加されています。

ついで第二条では

(学校給食の目標)

第二条 学校給食については、小学校における教育の目的を実現するために、左の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。

一 日常生活における食事について、正しい理解と望ましい習慣を養うこと。

二 学校生活を豊かにし、明るい社交性を養うこと。

三 食生活の合理化、栄養の改善及び健康の増進を図ること。

四 食糧の生産、配分及び消費について、正しい理解に導くこと。

と4つのみだった目標が

(学校給食の目標)
第二条 学校給食を実施するに当たつては、義務教育諸学校における教育の目的を実現するために、次に掲げる目標が達成されるよう努めなければならない。
一 適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図ること。
二 日常生活における食事について正しい理解を深め、健全な食生活を営むことができる判断力を培い、及び望ましい食習慣を養うこと。
三 学校生活を豊かにし、明るい社交性及び協同の精神を養うこと。
四 食生活が自然の恩恵の上に成り立つものであることについての理解を深め、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五 食生活が食にかかわる人々の様々な活動に支えられていることについての理解を深め、勤労を重んずる態度を養うこと。
六 我が国や各地域の優れた伝統的な食文化についての理解を深めること。
七 食料の生産、流通及び消費について、正しい理解に導くこと。

7つに増えています。ざっと見た限り、1,2,3,7は旧法の目標を踏襲しており、4,5,6が新規追加された目標と言えそうです。特に注意を引くのは6で、伝統的な食文化についての理解が目標として追加されています。

ついで食育基本法をみると、2条から8条で「基本理念」をさだめたのち、地方自治体等の「責務」として、食育の推進をすすめること、とする構造になっています。

本書では食育基本法は新自由主義の補完としての側面もある、と指摘していますが、一方で現場の努力等もあり、給食の全体としての充実もしている、とされています。(236以下)

給食費未納問題

一方で「給食費未納問題」における、給食費未納の場合の給食停止などは上記一般的性質2の原則をやぶるものといえ、問題をはらんでいます。感情としては様々あるところですが、給食というある種の一律性が支配する領域と、サービスの対価という「社会の基本的ルール」が支配する領域の対立の一側面として、考えるべき問題ではあります。

感想

給食の基本理念を最初に提示してくれているので、比較的早い段階で見取り図を描くことができ、読みやすい一冊です。食の安定が生活の基本となっており、誰しも食べた給食を思い出しながら、懐かしく読むことができると思います。また草創期の給食制度設計者の理念は、今も胸を打つものがありました。

内容についていえば、本書は5つの視座から給食の歴史を記述しているのですが、個人的な関心から、「子供の貧困対策」という視点がもっとも印象に残りました。本記事で紹介した内容も、その観点からの内容が多くなりましたが、運動史に興味を持たれる方は、「給食の危機」の時代や、調理現場での試みなどが印象にのこるなど、様々な読み方ができるかと思います。

また日本の学校給食のはじまりについてはwikipediaなどで知られている方も多いかと思いますが、そこでは記述の薄い佐伯などの貢献や、GHQの具体的施策なども知ることができるのが、本書のメリットといえます。

参考文献

文科省「給食の取組」

 

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